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ステルスマーケティングが10月から規制へ - 事業者・ホームページ運営者の注意点
2023年10月から導入開始されたステマ規制
ステルスマーケティング(ステマ)規制が2023年10月から導入されました。
ステルスマーケティングって何?
なんで規制されるの?外国の規制はどうなっている?
どのような規制になるの?どう対応すればいい?
などについて、わかりやすく解説いたします。
【もくじ】
消費者庁は、
中立的な第三者であることを装い、特定の商品やサービスの購入・利用に誘導する「ステルスマーケティング」(ステマ)について、
2023年10月から法規制の対象とする旨を公表するとともに、10月1日に施行に向けた運用基準を公表しました。(3月28日)
発表内容(運用基準)の詳細は
ダウンロードして↓ご確認ください。
ステルスマーケティングとは、
「企業から金銭等を受領した第三者が、中立的な立場を装って口コミや記事などをネット上に投稿して誘導する」「企業自体や社員などが、第三者を装って一般読者を誘導する」
などの行為を指します。
「良い口コミ・レビュー」によって、自社商品などに誘導することも、
「悪意ある口コミ・レビュー」によって競合を貶めることも、ステマに該当します。
ステマはこれまで法規制がなく、
社会的な問題としてしばしば取り上げられることはありましたが、
いわばグレーゾーンとして広がり続けていた、というのが実情です。
今回、法的な規制が明示されたことで、ステマは、
明確に「不当景品類及び不当表示防止法」(景品表示法)5条の規定が適用され、
違反すれば、再発防止を求める行政処分(措置命令)対象となり、事業者名が公表されることになります。
悪質と判断された場合、
二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金が課されることもあります。
ステマ規制の背景
広告費の50%以上が「ネット広告」という時代
私たちが情報を得る媒体は、テレビ・新聞・雑誌・書籍・ラジオなどが中心の時代から
ネット中心の時代に移行しています。
広告費の推移を見てみましょう。
青い棒グラフは、「新聞・雑誌・ラジオ・テレビの広告費」の合計、
オレンジ色は、「ネット広告費」です。
2019年に、ネット広告費がテレビ広告費を抜き、
2021年には、
ネット広告費が、「新聞・雑誌・ラジオ・テレビの広告費」の合計を上回っています。
ネット広告費が、広告の50%を超える時代であり、
いかに莫大な資金がネットに投下されているかわかります。
これは、私たちが「どこから情報を得て行動しているか」を反映した数字でもあります。
消費者庁のヒアリング調査から
消費者庁「ステルスマーケティングに関する検討会」事務局が、
広告代理店やインフルエンサーに行ったヒアリング調査・アンケート調査の結果を見てみましょう。
《ステルスマーケティングは行われているのか?》
- インフルエンサーの投稿について、全て確認したところ、100件のうち、20件程度の割合でステルスマーケティングと思われるような投稿が存在した。(広告代理店)
- 不正レビューの募集がSNS等で公然と行われており、ECサイト、グルメサイト等では、不正レビューが行われている実態がある。(有識者)
- ステルスマーケティングの売上に対する効果は高く、「広告」である旨明示しない広告は、少なくとも確実に 20%程度は増加するという体感を持っている。(広告代理店)
《現役のインフルエンサーに対するアンケート調査 》
インフルエンサーとは、沢山のSNSフォロワーを持つ・ブログ読者を持つなどの「ネット上で影響力のある人」を指します。
フォロワー数が数十万人を超えるような人を「メガインフルエンサー」
10万にを超える人を「ミドルインフルエンサー」と呼ぶこともあります。
これは消費者庁の公表レポートのほんの一部ですが、これだけ見ても、ステマがネット上に相当蔓延しているのがわかります。
私たちは、何かを買ったり選んだりするときに、「口コミ」「レビュー」「SNSでの評判」などを判断材料にすることが多いと思います。
企業が提供する情報・広告には
「誇大広告があるかも…」と割り引いた目で冷静に見ますが、
利害関係のない第三者が「これはいい!」と絶賛していたら、
「そうなんだ」と思いがちです。
でもそれらの「第三者」が、実は
「金銭を受けて、その企業のためのレビューを書き、口コミ投稿し、SNSで情報発信していたら…」
「金銭を受けて、一般人を装って、競合する他社を貶める・マイナスとなる口コミ・レビューを大量に書き込んでいたら…」
私たちは、ある意味「だましのテクニックによって、消費行動を誘導されている」ということになります。
ステマ報告書(消費者庁・2022年12月)
ダウンロード↓してご確認ください。
欧米のステルスマーケティング規制
欧米では、すでにステマ規制が導入されていて、
経済協力開発機構(OECD)加盟国でGDP上位9か国
(米国、日本、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、カナダ、韓国、オーストラリア)
において、ステマ規制が「存在しない国」は、日本だけという状態が長く続いてきました。
日本は「ステマ天国」と揶揄される状態であり、
消費者庁「ステマ検討会」が指摘している通り「すでに周回遅れ」の状態にあるわけです。
- 米国…連邦取引委員会法(FTC法)5条でのステマ規制(2009年~)
- イギリス…不公正取引からの消費者保護に関する規正法(2008年~)
- オーストラリア…オーストラリア消費者法(2010年~)
など、10年以上も前からステマ規制を行ってきており、
さらに米国では、米連邦取引委員会(FTC)が、アマゾン・ドット・コムをはじめとする700社以上に、ステマなどの欺瞞的な広告等を行った場合、高額な罰金を科すとの警告を発し(2021年10月)、
ステマ行為について広告代理店も処罰対象にする方向。
欧州連合(EU)は、「デジタルサービス法(DSA)」でステマ規制を行い、
プラットフォーマーにも広告規制をかけ、
違反すると「年間売上高の最大6%の罰金」という重い罰則が課されます。
日本のステマ規制は、ようやく第一歩が始まった段階といえるわけです。
ステルスマーケティングが問題となる理由
ステルスマーケティングが問題となる理由について簡単に確認しておきます。
消費者の自律的選択をゆがませる
ステマは、第三者を装った情報をネット上に蔓延させることで、
事業者が意図する商品・サービスの購買・利用に誘導する行為です。
私たちが「一般人の個人的な感想」として受け取って取っている「レビュー」「口コミ」などのネット情報が、実は、お金によって操作され、ゆがんでいるとすると…
私たち消費者の行動は、自律した判断による選択とは言えないものになってしまいます。
インターネット上の情報への信頼が崩壊して行く
「ライバル店の評価を下げるために、金銭を使って、第三者に、悪い口コミ(星評価)を大量に送る」
「フォロワーが何万人もいるインフルエンサーに金銭を渡して、客観的・個人的意見という装いで、事業者の意図通りの誇大広告宣伝を行う」
…こうしたことが蔓延し、放置されれば、ネット情報は無法地帯と化し、
やがて誰も信じないものになって行きます。
自立した情報空間としてのインターネットが、自壊して行くことになります。
社会的なモラルハザードが起こる
お金で情報をゆがませることで事業が拡大するのであれば、
誰もが、「社会的に正しくはない」と感じながらも、それを行わなければ事業が成り立たなくなる…などの理由で、ゆがんだ情報をお金で蔓延させる手法が広がり続けます。
「今だけ・金だけ・自分だけ」という考え方の蔓延はモラルハザードとなり、
社会の存立基盤を蝕んで行くことにつながります。
・・・・・
規制がなければ、ビジネスとしてステマは広がり続けます。
「周回遅れ」で、先進国で最も遅れた日本でも、ようやく規制の第一歩が始まったということになります。
ステマ規制の具体的内容
では、今回発表され、10月から施行されるステルスマーケティング規制の具体的内容を見て行きましょう。
まず、ステマ規制は、「不当景品類及び不当表示防止法」(景品表示法)第5条3項の規定に基づくものとなります。
不当景品類及び不当表示防止法
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
規制の対象者
ステマ規制は、
「事業者の表示であるにもかかわらず、第三者の表示であると誤認させる形の表示で
不当に顧客を誘引し、一般消費者の自主的・合理的な選択を阻害するもの」
を規制するものです。
規制の対象は、「事業者」であって、
インフルエンサーなど事業者でない者が行う行為は、今回の規制対象者ではありません。
欧米では、「事業者」「インフルエンサー」双方が規制の対象となっています。
規制される表示
●事業者が自ら行う表示
事業者が自ら表示しているにもかかわらず、
第三者が表示しているかのように誤認させる表示
(事業者の社員・子会社社員等が行った表示も含まれる)
●事業者が第三者に行わせる表示
事業者が金銭等の見返りを支払うことで、第三者に事業者が意図する表示を行わせ、
それが自発的な表示であるかのように表示させること
- 第三者のSNSサイトや口コミサイト
- ECサイトのレビュー
- アフィリエイターへの委託
(事業者とアフィリエイターの間で、表示内容について直接・間接の何らかのやり取りがある場合) - プラットフォームの口コミなどに、競合について低い評価を表示させる
事業者から第三者への金銭等支払いには、
金銭やサービス提供、経済上の利益をもたらすことを言外に感じさせること、なども含まれます。
事業者の表示であることの明示義務
インフルエンサーなどが、事業者から金銭等を見返りに受けて、SNSやブログ等で情報を発信すること自体が規制されるわけではありませんが、
こうした際には、「第三者が自主的に行った表示であると誤認させる形でないこと」が求められます。
つまり、記事や発信内容に、明確に、目立つ形で以下の表示を行う必要があります
- 「A社の委託を受けて投稿しています」との表示
- 「PR」「プロモーション」「広告」「宣伝」などの明示
これらは、閲覧者が見たときに、はっきり認識できる形でなければならず、
小さく表示したり、文章の中に埋もれる形で表示するものではNGとなります。
ホームページ運営者が注意すべき点
今回発表されたステマ規制によって、
これまでグレーゾーンだった表示内容に線引きが行われ、
違反した場合には「黒」として罰則等が課されます。
例えば、事業者が「比較サイト」や「おすすめサイト」を自ら運営した場合はどうでしょうか?
この「比較サイト」「おすすめサイト」の運営者を明示せずに(または偽り)、
客観的な評価としてしての「おすすめ」であるかのように偽装表示して
自社の商品やサービスに誘導した場合、
景品表示法5条「違反」となります。
表示方法の是正やホームページの削除が求められ、
事業者名が「公表」されることになります。
違反事業者として公表されれば、当然、検索エンジンはその情報をキャッチしますので、
運営しているその他のサイトすべてに、大きなマイナスの影響が出ることになります。
ホームページでのSEO・集客を考えるとき
「裏ワザ」的な手法を駆使して、閲覧者を欺くのではなく、
「閲覧者に最高の体験・情報を提供するコンテンツ」を地道に発信することが一番の近道になります。
法規制も、検索エンジンのアルゴリズムも、この方向でアップデートして行きます。
「今だけ・カネだけ・自分だけ」の時代から、
「人に貢献する・つながり合う」時代へ。
ホームページ運営も転換の時に入っています。
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